月曜日・スポーツの日の祝日。
世間は休みだが、10月のシステム更改を控えた我が開発部は有志で休日出勤。といってもオフィスの人数はまばらで、静かな時間が流れていた。
テレビの補償適用が決まり、30万自腹の危機を脱して足取りも軽く給湯室へドリップコーヒーを淹れに行った。
すると、同じく休日出勤していた総務の佐藤さん(安らぎ担当)が、マイポットにお湯を注いでいた。
「あ、鈴木課長! お疲れ様です! なんだか今日、すごく憑き物が落ちたみたいにスッキリしたお顔してますね!」
さすが総務の観察眼。昨夜まで地獄の底を這いずり回っていた男とは到底思えない爽快感だ。
「いやあ、ちょっと長年の懸案事項が一つ解決してね。佐藤さんは休日なのに大変だね、ストレス溜まってない?」
世間話のつもりでそう尋ねると、佐藤さんはふふっと穏やかに微笑み、信じられないセリフを口にした。
「私、ストレス溜まらないんです。私の心の癒しは……マザー・テレサなんですよ」
「……はい?」
「毎晩寝る前に、マザー・テレサの名言集を開いて心を洗うんです。『愛の反対は憎しみではなく、無関心です』とか……読むだけで心がカルカッタの青空のように澄み渡っていくんですよ〜」
聖母……!?
池袋のワンルームでワニの剥製を机に隠し、画面の割れたテレビの前で嗚咽し、11月にバーチャル犯罪都市で銀行強盗を企てている自分と、毎晩マザー・テレサの言葉で魂を浄化している佐藤さん。
人間としてのカルマの格差に、頭がクラクラした。
「す、素晴らしいね佐藤さん……見習わなきゃな……」
「課長もいつも大変そうですけど、たまにはご自身にも愛を注いであげてくださいね」とおっとり微笑む佐藤さん。
その眩しすぎる笑顔に目を細めながら、俺はコーヒーを一口すすった。
俺が注ごうとしているのは愛ではなく、強欲と硝煙のレオニダだ。あと38日。
街のあちこちにある監視カメラ。犯罪の前にハッキングして無効化しておかないと、すぐに警察に通報されてしまうステルス要素が追加される模様です。(関連キーワード:監視カメラ / CCTV / ハッキング / ステルス)