木曜日の朝。出社してきた小林は、吹っ切れたような清々しい顔をしていた。
始業前、給湯室の横で小林が小声で頭を下げてきた。
「課長……一昨日の夜はありがとうございました。僕の考えが浅かったです。退職届は破棄します」
「おう、よく分かってくれた。で、どうする?」
小林はニヤリと笑った。
「辞める代わりに、11月19日から有給を全力でぶち込みます。
土日祝と合わせて、課長と同じジャスト10連休を勝ち取ってみせます!」
そもそも、小林がなぜ「有休」ではなくいきなり「退職」を切り出してきたのか。
一昨日の居酒屋で問い詰めた時、小林はバツが悪そうに白状していたのだ。
「だって課長、11月19日から『マイアミ一人旅』で先に大型有休を押さえてたじゃないですか。
開発課の責任者と現場のエースの2名が、まったく同じ時期に揃って10連休を取るなんて普通の会社組織じゃまず通らないですし、僕が申請しても却下されると思って……。
それに、会社の規定だと1ヶ月前に辞表を出さないと間に合わなくなりそうだったので、焦って退職届を用意したんです」
そう、小林が思い詰めて退職を決意した根本的な原因は、何を隠そう俺が先にマイアミ渡航で有休枠を押さえていたことだったのだ。
しかも、もしエースの小林に抜けられたら、現場の穴埋めは全部課長の俺に降りかかり、俺の有休(自室引きこもりGTA)すら跡形もなく消し飛ぶ。
だから俺にとっても、小林を引き留める以外の選択肢は最初から無かった。
課長とエースが同じ時期に10日も現場を空ける——。
普通ならプロジェクトが破綻するこの暴挙を会社に認めさせる唯一の道は、誰にも文句を言わせない圧倒的な成果を事前に叩き出しておくことだけだ。
「よし、交渉成立だな。10月中旬〜11月前半のスプリントで全案件を爆速で前倒しして完遂させるぞ。
部長への根回しと有休申請のハンコは俺が全部責任を持つ」
「ありがとうございます課長! AIフル稼働で頑張ります!」
給湯室の前で、固く拳を合わせる上司と部下。
かつては管理職と部下だった俺たちは今、「11月19日、同じ目的で10連休を勝ち取る同志(戦友)」となっていた。
我が開発課は、期せずして「GTA6発売日に向けて一致団結する秘密結社」と化している。
小林のタイピング音がいつもの1.5倍の速度でフロアに響き渡る。AIの利用上限に達しないか気になるところだ。あと35日。
警察の視界から逃れるため、ゴミ箱や茂み、さらには車のトランクに隠れるシステムがあるとのこと。息を潜める緊張感がたまりませんぞ!(関連キーワード:隠れる / トランク / ステルス / 逃走劇)