木曜日の昼休み。
契約書の差し替えで渋谷オフィスに来社していた営業の田中さんから、エレベーターホールで声をかけられた。
「鈴木課長! もしお昼まだでしたら、ご一緒しませんか? 美味しいパスタのお店見つけたんですよ」
断る理由もないので、宮下パーク近くの落ち着いたイタリアンへ向かった。
ランチのサラダをつつきながら、田中さんが周囲を警戒するように声を潜めて身を乗り出してきた。
「……課長、実は先日の話なんですけど……」
「ん? 先日の?」
「ほら、私の待ち受けの……推しの話です!」
あ、例の地下アイドルの件か。
「実は来月、推しのグループの東名阪ツアーが決まりまして! 私、全通(全公演参加)するために金曜と月曜に有休を取る計画を立ててるんです!
社内でこんな話できるの、マイアミに全てを懸けてる鈴木課長だけなんです……!」
目をキラキラと輝かせながら、遠征費の計算シートや夜行バスの手配について熱弁を振るう田中さん。
「平日は鬼のように働いて、週末に推しのために命を燃やす。これが私の生きがいなんです!」
その姿に、俺は深く感じ入っていた。
「立派だよ田中さん。他人にどう思われようと、自分が心から熱狂できるものを持ってる人間は強い。
俺も11月、全力で命を燃やしてくるよ」
「はい! お互い、最高の11月にしましょうね!」
地下アイドルに人生を捧げる若き営業女子と、オープンワールド犯罪ゲームに狂う42歳のおじさん。
渋谷のイタリアンで、奇妙で尊い同志の絆が結ばれた木曜の昼。あと28日。
質屋や宝石店を襲い、ショーケースを割って高価な時計やネックレスを奪取。奪ったアイテムは闇市場で換金するシステムになりそうですな。(関連キーワード:質屋 / 宝石強盗 / ショーケース / 闇市場)